te to ba〈手と場〉のカフェから歩いて30秒のところにホステルta bi to〈旅人〉はあります。
コロナ渦がピークだった2020年の7月にひっそりとオープンしてからはや2年が経ちました。
その間、日本全国、そして世界の色んな国と地域からたくさんの旅人が訪ねて、五島列島の富江という小さな港町に滞在し、この町を歩き、知り、去っていきます。
目的は人それぞれ。釣り、観光、サイクリング、出張、移住のための下見、考え事。
つい先日には、ここ富江の生まれで、中学生の時に島を離れることになった女性が35年ぶりに生まれ故郷を訪ねるためにお宿に泊まっていかれました。
その方のお住まいはアメリカでした。
その女性は、カフェから数分のところにある場所に当時、家があってそこで少女時代まで暮らされていましたが、お父様が亡くなられてから島を出ざるをえなくなり、その後、アメリカへと渡り、現地の方と結婚されて、いまは外国姓を名乗っていらっしゃいました。
お宿で二泊されているあいだ、毎日、ポラロイドカメラを手にお家のあった場所や港や町の中を歩かれて、多感な時代を過ごした当時の町の記憶と現在との風景の移り変わりや
「断絶」と向き合いながら、それを埋めようとするかのように、静かに過去のご自分と対話されているようでした。
その方が最後に宿を出られた後に、お部屋のお掃除に入ると机の上に残していったのが写真にあるお手紙と宿の外観を撮った一枚のポラロイド写真。
そこには、私たちへの感謝の気持ちと「富江での悲しい思い出を楽しく、そして温かい思い出にぬりかえてくださり本当にありがとうございました」と書かれていました。
ta bi to〈旅人〉では、私たちがお泊まりになられる方、お一人お一人に手書きでお手紙のようなウェルカムカードを書いて、お迎えしているせいか、去り際にお返事のお手紙を置いていってくださる宿泊客もたまにいらっしゃいます。
どのお手紙も嬉しいのですが、今回の女性のお手紙は特別に心に響くものがありました。
私たちは彼女が島を去ってから30年経って、この富江という町にお店を開きました。
私たちの知らない30年前までの十数年をお店からたった数分の距離で過ごした女性。
同じ町に暮らしながら、今までまったく交差することのなかった人生、記憶、悲しみ、喜び・・・
この町とta bi to〈旅人〉という宿が接点となって、出会うはずのなかった人や人生の物語に出会うこと。
出会うことで何かが新しく変わり始めること。
お宿をやっていてよかったと心から思える瞬間でした。
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